フォオクロア インターネット上には様々な種類のホームページがある。その中で、「お題配布サイト」と分類されるホームページが存在する。 「お題配布サイト」には、簡単な単語や短い文が、ランダムに、あるいは系列的に、載せられている。それをもとに、そのサイトを訪れた人々は想像し、絵や文章を書く。「喜」とあれば、「喜」びの表情を描いたり、「喜」ばしいことのあった文章を書いたり、といったふうにである。 こういった「お題配布サイト」は数多く存在するが、最近、密かに掲示板やチャットで噂になっているものがひとつある。 ≪フォオクロア≫ そのホームページはその名のとおり、民間伝承、中でも現代になって現れてきた、口裂け女や人面犬に代表される「都市伝説」のお題配布サイトである。 『都市伝説は、幽霊の出てくる怪談よりちょっとリアルで、身近で、ぞっとする。教室の話題に出せは、知らない人はまずいない。怖い話は聞きたくないけど、ちょっと気になってつい聞いてしまう。それを作ったのが自分だったなら――』 というのが、このホームページの冒頭の文章である。「人体」や「場所」など、様々に分類されたキーワードの中からお題を選び、自分で都市伝説を作ろう、というのだ。このホームページへのアクセス数は、1日平均約50、という決して多いほうではないが、その数は安定している。 お題配布サイトでは、そのホームページのお題を使用した際、管理人が設置している掲示板に、使用報告を書き込むのが一般的なルールである。その書き込みに対して、返信するかどうかは管理人によって異なるが、≪フォオクロア≫の管理人は、遅くとも2日以内には返信していた。しかし、≪フォオクロア≫へのアクセス数が一万を越えたころ、書き込みへの返信はされなくなった。そのことが今、様々な掲示板やチャットで噂になっているのだ。管理人の無精といえばそれまでなのだが、それだけでは終わらせられない理由がそのホームページにはあった。 ≪フォオクロア≫では、お題の使用例としてキーワードのひとつ「ホームページ」を使用し、タイトルを「ある管理人の話」とっして、管理人が自作の都市伝説をひとつ載せていた。それはこういうものであった。 ある人が、生まれて初めてホームページを立ち上げた。そのホームページは、決してアクセス数が多いわけではなかったが、いつも安定したアクセス数を維持していた。訪れた人々との掲示板での交流も楽しく、何より日々増えていくトータルのアクセス数を見るのが楽しかった。だから、その人は時間が空けばいつでも、夜は遅くまで、自分のホームページを眺めていた。しかし、アクセス数が1万を超えた後、ばったりとその人の消息は途絶えた。もしかしたら、飽きたのかもしれないが、この人は以前こう言っていたそうだ。 「アクセス数が一万超えたら、もう死ぬほどうれしいんだろうな。」 最近、よく聞く噂がある 「あるホームページでお題を借りて話を書くと、その話が本当になるらしい」 end というサイトを作ろうかと思ってやめた。あるよね、こういうサイト。 070509(初出051112) 睦月 朔 |