卒業式 僕と彼女は、進路についての話は一切しなかった。 きっと離れてしまうだろう僕らのこれからを、確かめる勇気が僕にはなかった。彼女も、僕のそんな雰囲気を察知してか、進路の話題だけは出さなかった。 今日で、僕と彼女が会うことはなくなる。家の住所も電話番号も、携帯のアドレスも知っているのに、なぜだかそんな確信があった。 「卒業おめでとう、吉野」 「おめでとう、空」 「やっぱりさ、もう、……遅いかな」 「……うん」 「…………さよなら、桜」 「さよなら、空」 すぐに後ろを向いた、彼女の目元が桜色に染まっていたのが、嬉しくて、哀しかった。 君との思い出は、いつまでも溢れて溢れて、止まることを知らない。 僕らがこうなってしまったのは、僕の臆病な心のせいだ。彼女は、ずっと伝えてくれていたのに。 後悔が、彼女をどんどん忘れられないものにしていく。 裏面いっぱいに満開の桜の、転居届けを送ったら、何かが変わるだろうか。 僕と彼女の一年は that's all...? 5部作のラスト。 最初に思いついたのは「体育祭」。 short shortの「桜と空」が続きみたいな感じです。 070509(初出070117) 睦月 朔 |