大雪



 大晦日の朝、窓の向こうに広がっていたのは、痛いくらいに眩しい一面の白。校舎裏で雪だるまを作っているという彼女に呼び出され、職員室の前を通らないルートでそこへ向かう。補習が休みになった学校はとても静かだ。しん、と澄み切った空気に頬を刺されながら、さくさくと雪を踏み、一歩一歩、うずくまっている彼女に近づく。彼女の足元には小さな雪だるまが、すでに三つもあった。

「吉野」

 呼んでも反応のない彼女に、もう一度、声を大きくして呼びかけると、今度は振り向いて、おはようと微笑んだ。



「雪ってさ、音を飲み込んじゃうんだって。だから、雪の日は街が静かになるんだってさ」

 だから、実験に付き合ってほしい、と彼女は言った。
 十メートルほど離れて、彼女が叫ぶのを待つ。

「――――――!!」

 聞こえなかった、と彼女に告げると、実験は成功だね、と寂しそうに笑った。彼女が叫んだとき、すぐそばの樹から、鳥が慌てて飛び去っていったのを、僕も彼女も見ていたから。




 受け止められなかった彼女の気持ちは、あの鳥と一緒に、去っていったように思えた。










next→卒業式


5部作の4。